インドには「この世の全てを生み出し、動かしているのは耳に聴こえない音の波だ」
という教えがあるそうです。
8月31日まで開催していただいた、篠原紙工図書室の「Bindary Story 神迎え」にて、
天井から吊るした水野竜生の原画が風も吹かないのに揺れるたび、
昔、どこかで読んだこの一節を思い出していました。
まぁ、波動と風は違うんですけどね(笑)

この「神迎え」誕生までには、制作に関わったメンバーはもちろんのこと、
使用した和紙、和紙の糸、本を包むことになった風呂敷、桐箱・・・
と、たくさんの人の手と想いが詰まっています。

この本に限らず、何を生み出すにしても、人の想いが宿っていないものはないわけですが、
でも、こうして「神迎え」のお披露目の機会を続けていただけているのは、
おそらく、「自分のために作った」
と、制作メンバーが誰一人思っていないからではないか、と考えています。
もちろん、「稲垣さんに強引に誘われて、断れなかった」というのは、
無きにしも非ずでしょうが(笑)

7月26日に開催したトークイベントでは、制作の苦労話に花が咲きました。
その中で、篠原紙工代表の篠原慶丞さんが
「途中で壁にぶつかった時、お金のことは一旦傍において、
自分たちが本当に良いと思う形のものを真剣に作って、
あとでどう売るかみんなで考えましょう、と提案したんです。
あの時から、流れが変わりましたね」
と話してくださいました。
まさに、潤沢な資金があったわけではないのに、
こんな進め方が実現できたのは、
やっぱり「耳に聴こえない音の波」によるもの、と思っています。

このメンバーに「いったい、我々の報酬はどうなるんですか?」
なんて、一度も言われたことがなかったですから。
ありがたいことです。
でも、だからこそ、黙々と一番手を動かしてくれた、
アートディレクション担当・谷さやさんの
仕事を見てもらう機会を作りたかった、というのがありました。

そして、私(稲垣)自身だって、
「どうしてこの本を作ろうと思ったんですか?」と
何度尋ねられても
「当然、伏線のような出来事はあったけれど、ある日突然
つくりたい、つくらなきゃ、と思ったのです」
としか答えようがないのです。
不思議です。
でも、そんな時の方が人は頑張れるものかもしれませんね。
これで、自社の売り上げを倍にするぞ、なんてことを目標にしていたら
きっと違うものが生まれていたはずです。

あらためまして、
今回の「Bindary Story 神迎え」にお越しくださいました皆さま、
誠にありがとうございました。
酷暑なのか、汗を拭き拭き足をお運びくださいました方々に、
篠原紙工スタッフの皆さまに、 心より感謝を申し上げます。

そして、次なる展示はなんと、隠岐島。
この夏、海士町にオープンしたばかりの「GANGUBAKO」にて
10月25日−11月1日まで開催です。
この期間、メンバーが隠岐にいます。
前々から気になっていた、隠岐に行きたいと思っていたよ、と言う方
ぜひ、お越しください。一緒に楽しみましょう!