我々が作っているものは、「本」というよりも「アート」もしくは、「アートブック」と言った方が正しく、私の伝え方を変えていかなければ、と思っているこの頃です。
『神迎え』特装版は限定50部の発行と決まりました。
そして、以前にもお伝えした通り、この特装版には水野竜生先生の原画が各1点、最後のページに納まります。
水野先生が石州手漉き和紙1枚1枚に朱の岩絵具を塗り、その上にお神楽の舞人を描いてくださったもので、同じ絵は一つとしてありません。50点、ずらりと並べるとまさに圧巻です。
ここに描かれたものは、人なのか、神なのか。
どちらの存在も共にあるひとときが、まさに神楽。皆様にお届けできるのが、とても楽しみです。
そして、水野先生の原画を手にしたとき、もう一つ決めたことがありました。この本を桐箱に納めようと。
原画、最新の印刷技術を使ってお届けする他の絵も、永く美しい状態で保管していただくには、それこそ、日本人の知恵が結集した桐箱しかないと思ったのです。
そして今回、桐箱をお願いしたのが、東京都台東区にある明治元年創業の箱義桐箱店(はこよしきりばこてん)さんです。
https://hakoyoshi.com/
ネット上には安価で桐箱を作っておられる会社さんもたくさんあるのですが、やはり、職人さんの顔が見えるところにお願いしたい、と思いました。
国内で流通している多くの桐箱はすでに中国で作られているものになっています。
この伝統工芸が廃れてしまうか否か、今、そのギリギリの状態であることも知りました。
ちなみに、こちらの箱義桐箱店・谷中店は、様々なアーティストが集い、水野先生と谷さんのご縁も生まれたという、「さんさき坂カフェ」のすぐそばにあります。
https://www.instagram.com/sansakizaka/
そして、以前からお二人が気になっていたお店だったそうです。
店内には様々な用途に合わせて作られた箱が多数、整然と並んでいます。
その様は実に美しく、背筋が伸びるような凛とした空気がここには流れています。職人さんの丁寧な手仕事の集積が、この空気感を生み出しているのだと感じました。
ところで、近年まで「桐」は木ではなく「ゴマノハグサ」科に属する草の仲間とされてきたことをご存じでしょうか?
だから、木と同じと書いて、「桐」なのです。
しかし、ミクロなゲノム解析から被子植物の新しいAPG分類体系によって、桐はシソ目キリ科として広葉樹に分類されるようになったとか。
桐は湿度が高くなると膨張し、気密性を高めて内部へ湿気が侵入するのを防ぎます。また乾燥時には収縮し、自身の水分を放出します。雨の日に箱の蓋が開けにくくなるのはこのためだそうです。防虫・抗菌作用を持ち、平安時代から保存・保管の素材として使われてきた桐は、日本の気候風土に最も適した素材なのです。
現在、本のサイズに合わせた桐箱を制作していただいております。
試作品として出来上がってきた桐箱は、実に滑らかでどこか優しく暖かです。『神迎え』を納めると、魂がすっと宿ったように感じました。納めるべきところに大事なものを納めることができた、なぜかそう思えて、心底ほっとしたのでした。
さて、次号ではより手にとっていただきやすい書林版についてご紹介する予定です。
Japan Craft Book プロジェクト
代表 稲垣麻由美
official@japancraftbook.com
ーつづくー