Japan Craft Book  project

vol.44 2年ぶりの焼火神社例大祭へ。

Japan Craft Book Project のニュースレターを発信するようになってしばらく経った頃、
ある方から、
「私は宗教に傾倒している人は苦手で、今後のお付き合いは遠慮させていただきたい」
と、メッセージを頂いたことがありました。

(2024年7月23日 焼火神社例大祭 隠岐島前神楽「切り部」)


「はて? 私がしていることは、宗教なのだろうか?」

確かに、発信している文章には「神様」という言葉が度々出てきます。世の中には、そうとらえる人もいるだろうと思いつつ、どこか腑に落ちないものがありました。

(菱浦港へ向かう車の中から)


隠岐島に行くと、こんな空と海に出逢います。

信仰や宗教という概念など持ち出さずとも、目の前に広がる圧倒的な美しさに心を動かされ、自然と手を合わせる。日々の営みの中で、何かに守られていると感じる。
人間の力など及ばぬ大きな何かを当然のものとして受け入れ、その存在とともにある暮らしこそが、人間の本来の姿なのではないか。

そんなふうに思ったりします。

(西ノ島 摩天崖)


ちなみに、Natureにあたる「自然」という言葉が誕生したのは明治も終わりのことだそうです。それまでは「おのずと」ある山川草木を総称する言葉はなかったのだとか。

「かみさま」という言葉を意図的に避けた「超越的存在」というような言い方も、ここで風に吹かれていると、都会に暮らす人間が作った陳腐なもののように思えてきます。

この国に暮らし、四季を愛で、おのずとこころに湧き上がってくるものは、これからの思索の道すじを照らすものとなる気がします。

(明治以前は「焼火山雲上寺」。平安時代初期ごろには焼火権現の名は都にまで届いていた)


さて、このニュースレターでもご案内しましたが、去る7月23日の焼火神社例大祭へ『神迎え』に共振してくださった方々とツアーを組んで出かけました。
総勢16名。賑やかでとにかく笑いの絶えない旅となりました。

(旧三田小学校に展示保存してある水野先生の焼火10メートル作品。こちらにご案内するのも叶えたかったことの一つでした)


実は本を作る過程の中で、画家の水野竜生先生、デザイナーの谷さやさん、稲垣の3人で「本が完成したら、購入してくださった方々と一緒に隠岐に行けたらいいね」と度々話していたのです。

また、松浦道仁宮司に取材させていただいたとき、「一番の恩返しはなんでしょうか?」と尋ねると、「ここに、いろいろな人が来てくれることですね」と、にっこり笑っておっしゃったのです。
離島の標高300mにある社を守り続ける宮司の言葉は、ある重量感を持って私の心に響きました。

そんな経緯もあり、今回のツアーが実現したことはまさに感慨無量でした。


また、隠岐島前神楽保存会の演者の皆様と『神迎え』をご覧いただきながら、じっくりお話しすることも叶いました。

「この絵は俺だな。いい動きしてるな」

などと喜んでくださる様子を拝見できたことは嬉しく、深く安堵するものがありました。

連綿と続く神楽を継承しておられる方々、地元の方に愛されてこそ、この本の存在は意義あるものとなります。


そして最後に、最も嬉しかったのは、西ノ島にある素敵な図書館「いかあ屋」にて地元の小学生たちにも特装版を見てもらえたこと(書林版は寄贈済です)。

子どもたちの反応は実に素直です。
「こんな大きな本、初めてみた!」
「むずかしい文章でよくわかんない〜」
「なんだか、気持ちいい紙だね」

そして、最後に
「ここに、かみさまがいるね」と言ってくれた子がいました。

もうそれだけで、プロジェクトメンバーは十分すぎるほど幸せになれたのでした。

ツアーにご参加くださったみなさま、ご尽力いただいた西ノ島観光協会、JTB山陰支店のみなさま、本当にありがとうございました。
また、このご縁をより大切にしていきたいと思っています。

Japan Craft Book プロジェクト代表  稲垣麻由美
official@japancraftbook.com

ーつづくー

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